哀しみのないサバイバル小説 『透明人間の告白』

透明人間に迫り来る影

  • 書名:『透明人間の告白(上・下)』
  • 著者:H・F・セイント
  • 翻訳:高見浩
  • ISBN: 978-4102377017(上)、978-4102377024(下)
  • 刊行日:1992年5月
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:398(上)、381(下)
  • 形態:文庫

主人公の証券会社に勤める男が、ある研究施設での事故にまきこまれ透明人間となってしまう。彼は透明人間を捕まえようとする当局から逃れるためにニューヨークの街を逃げ回ることとなる・・・

本の雑誌のオールタイムベストテン(過去から今まで全ての作品のベスト)の何位かに入っていたので、面白そうだなと思い読んでみた。

そういえばオールタイムベストという表現ってなんかおかしいなと思っていて、和製英語かなとWebの辞書で調べてみたら、「史上最高の」という意味だった。

和製英語ではなかった・・・

本書は上下巻合わせて700ページ超えの結構なボリュームだったがさらりと読むことが出来た。ただ読むことが出来たのはとても面白かった!からではなく、結末が気になったからである。

透明人間になった男がどのような結末を迎えたのかはあえて書かないが、なんとなく肩透かしをくらわされたような結末ではあった。

この小説の設定で気になる点が一つある。

透明人間の食事場面は出てくるのだが、排泄の場面がほとんど出てこない。

読んだ人ならわかると思うのだが、この透明人間から排泄されるモノが透明か否かでストーリーと主人公の行動に大きな影響が出てくるのである。

もちろん、透明人間になったため排泄はしなくなったのかもしれないのだが、それだと冒頭でおしっこをしている場面の説明がつかない。

それとストーリーと関係ないところで一つ。

訳が古い、訳者のセンスがないだけかもしれないが女性の言葉遣いなどが、今じゃありえないよ・・・というものがあった。20年弱前ってそんなに言葉が違ったかな?と思ってしまう。

そしてこの主人公、なんだか感情移入できない。運命の神様の気まぐれかなんかで透明人間になってしまった主人公、とても哀しそうではあるのだが、なんだか彼の哀しさにリアリティが全く無いのだ。

それは主人公を描写する作者の腕の無さだと思うのだがいかがだろう。

なんだか罵倒している文のようになってしまい、上下巻を律儀に読んだ私はなんだったのか?と思ってしまうが、そこまで悪くは無い小説です、ただ期待してた分、がっかりしたのも確かなのだ。

でもやっぱスマホとパソコンが巷に溢れる現代では、ちょっとこの透明人間の話じゃ面白くないかもしれない。(現代に照らし合わせると違ってくる部分が多々あるんです、過去の作品に現代の価値観を当てはめるのはルール違反なのだけど、とにかく期待が大きかった分だけ落胆も大きかったのです)