なんとなくしっくり来る仮説『空白の桶狭間』

空白の桶狭間

  • 書名:『空白の桶狭間』
  • 著者:加藤廣
  • ISBN:978-4101330525
  • 刊行日:2011年10月1日
  • 発行:新潮文庫
  • 価格:476円(税別)
  • ページ数:319
  • 形態:文庫

信長に関連する謎の中で一番有名なものは「本能寺の変」であろうが、本作の題材になっている「桶狭間の戦い」も信長の謎の中でかなり大きなものである。

大軍を擁しているはずの今川義元が何故簡単に首を取られてしまったのか?そもそも織田信長は奇襲をしたのか?奇襲をしたとしても大軍に気づかれずに今川義元の本陣に近づけたのは何故か?など。

また信長が出陣前に敦盛を舞ったり、わずかな手勢のみを率いて信長が城を飛び出したり、熱田神宮で戦勝祈願をしたり、さらに油断している義元を豪雨の中で討ち取ったり、そのイメージがとても鮮烈で、すごく映像的で、つまりなんつーか神話チックというか、だから桶狭間の戦いのディティールは全て作り話っぽい感じがムンムンしてくるのだ。

で、その疑問にひとつの答えを与えてくれるのが本書である。

ずばり桶狭間の戦いの今川義元への奇襲の絵を描いたのは羽柴秀吉(木下藤吉郎)であり、さらに秀吉は「山の民」出身でその山の民たちを使って義元をだまし討ちしたというのが本書の主張である。

うん、面白い。

山の民と出てくると隆慶一郎を思い出してしまう、まあ秀吉が山の民だったかどうかというのは置いておいて、信長が義元に降伏するという偽の情報を使って義元を騙して桶狭間に誘導するというのはちょっと興奮する説である。

そうか、たしかに、信長が降伏するって言ってきたら義元側は信じるよね、大軍を引き連れているのだから、信長は俺のこと怖いんだガハハ、って思っちゃうよね。

秀吉が桶狭間の戦いの褒美として信長に

  • 天皇を尊崇すること
  • サルと呼ばないで欲しいこと
  • 市を嫁にほしいこと

の3つのお願いをするのだが、それはほとんど守られずに同著者の『信長の棺』の伏線になっていて、さらにそれはその続編『秀吉の枷』の伏線にもなっているようだ。

『信長の棺』は以前読んでいるが、『秀吉の枷』はまだ未読なので今から楽しみである。