余韻がずっと醒めない映画みたいな傑作 『平原の町』

平原の町

  • 書名: 『平原の町』
  • 原題: “CITIES OF THE PLAIN”
  • 著者: コーマック・マッカーシー(Cormac McCarthy)
  • 訳者: 黒原敏行
  • ISBN: 978-4151200588
  • 刊行日: 2010年1月20日
  • 発行: ハヤカワepi文庫
  • 価格: 1,060円(税別)
  • ページ数: 495
  • 形態: 文庫

私がコーマック・マッカーシーの作品を初めて読んだのは『ザ・ロード』である。

終末SFの作品として紹介されていたので、読んでみたのだがあまりに暗くて気持ちがどよーんと落ち込んだのを覚えている。

ストーリーは父と息子が最終戦争後のアメリカと思しき場所を安住の地を求めて彷徨するというもので、SF的な説明などはほとんど無く、疲れきった親子の会話を中心に話が進んでいくという、とにかく絶望的な話だった。

最後にはほんの少しだけの希望が示されるのだが、それが希望なのか、ホントに希望と受け取っていいのか悩むような希望である。

SFを読みたいと思って読んだのに、なんというか強烈なカウンターパンチを浴びてしまい、読後の印象は悪かった。

しかし、少し経ってから越境三部作が売られているのを見て、3冊全部買ってしまった。(正確には『すべての美しい馬』と『越境』を買って数日してから『平原の町』を買った)

もっと正確に言うと『すべての美しい馬』と『越境』を買ったのが2010年の11月27日、『平原の町』を買ったのが同年の11月30日である。

ついでに言うと11月30日は私が初めてのスマホであるシャープのIS03を買った日だ、すごい期待していたスマホだったが、初期のAndroidはとにかくなんつーかがっかりな出来だった。

って関係ないか。

正確に日付けがわかるのは私が日記をつけているからなのだが、それもまた関係ない。

『平原の町』はコーマック・マッカーシーの越境三部作の第三作目であり、本作では『すべての美しい馬』の主人公であるジョン・グレイディと『越境』のビリー・パーハムがメキシコとの国境近くの同じ牧場で働いている。で、本作の主人公はどちらかというとジョン・グレイディである。

『すべての美しい馬』と『越境』とたしか『ザ・ロード』もそうだったが、本作も登場人物たちが喋るセリフに鉤括弧(「」)がない。最初はそれに戸惑うが、だんだん慣れてくると映画のワンシーンをスローモーションで見ているような陶酔感を味わえる。

『すべての美しい馬』と『越境』はページに文章が詰まっていて少し読みにくかった記憶があるが、本作は改行が結構あるので読みやすい。

しかし文章を1回なぞっただけではすぐに頭に入ってこない、これはグレイディが喋ったのか、それともビリーが喋ったのか?よくわからないので何度も何度も読み返すのだ、それが映画をスローモーションで見てるような感覚を呼び起こすのだろう。

溶けなくて絶対に飽きないアメをなめているみたいだ、舌がしびれることも無い。私は読み終わったけどまだ、私の口に入っているアメは全く溶けてない感じだ。

ストーリーは解説を読めばいい、解説は非常によくまとまっている。ストーリーを追うタイプのエンタメ作品ではないのでストーリーが気になるのであれば解説を読んでから買えばいい。

取り留めの無い説明になったけどすごいいい映画を1人で映画館で見て、帰りの電車の中でも映画の余韻から醒めない、みたいな状態がずっと続くような読書体験ができる。つまり傑作だ。