よくないことが重なって 『やみなべの陰謀』

  • 書名:『やみなべの陰謀』
  • 著者:田中哲弥
  • ISBN:-
  • 刊行年:2006年
  • 発行:ハヤカワ文庫JA
  • 価格:-
  • ページ数:-
  • 形態:文庫

何でこの本を買ったのかよく覚えていないのだが、今はもうなくなった吉祥寺のパルコブックセンターのハヤカワ文庫SFコーナーでとにかくこの本を手に取ったのである。

文庫本の裏表紙の右上に本の内容の要約および短い解説などが書いてあるでしょう。
あそこの部分に確か「傑作」と書いてあったのだ。

売る側が「傑作」と書いているので非常に怪しいのだが、その時は何となく買ってしまった。
とは言ったものの、パルコでは見て気になっただけで実はその後amazonで買ったという記憶もある、どっちだったか。

私は文庫本をよく買うのだが、買ってすぐに読んだりはしない。

そうやって何となく買った文庫本が私の部屋に溜まっていて、「それより以前に何となく買った本」を「今読んでいる」というような状況なのである。

だから買ったばかりの「新人」の本達は私の部屋で寝かされる事になるのである。そうやって「新人」→「中堅」→「古参」となってやっと飼い主である、いや買い主だ。買い主である私に読まれるという喜びの瞬間を迎えることになるのである。

中には「大型新人」や「超新人級」などというのもいて、これは期待の新人なのですぐに読まれることになる。

逆に、「古参」の後に「最古参」となり、「忘れ去られ」、遂に読まれずに「引退」となった悲惨な文庫本達も少しだけ存在する。
もちろん、「引退」寸前に私に拾われ、その才能に私が気づき、めでたく「殿堂」入りした本だってある。

そんな熾烈な競争が繰り広げられている私の文庫本の世界に、いわゆる普通の「新人」として彼(『やみなべの陰謀』)は入ってきたのである。

普通の「新人」は買われてから1~3ヶ月後くらいに読まれることになる。
『やみなべの陰謀』君は買われてから大体1ヶ月くらいで私に読まれたので、まあワリと幸運な方である。

本の内容に触れずにここまで来てしまった。 まあとにかく結論としては、買って、読んで、面白かった。
ということである。

  • 田中哲弥というワリとよくある名前(覚えにくい)
  • ハヤカワ文庫から出版(SFだと思われて敬遠される)
  • あまりそそられないタイトル(と私は思う)

などなど内容以外のところで不利があるとは思うが、もっと有名になって売れていい本だと思う。

ハヤカワ文庫は私は好きなのだが、どうも一般受けがよくない。
大体の人はハヤカワ文庫と聞くと「ああ、SFでしょ」となるのである。

これはまだマシな方で、「ハヤカワって何?」という人だっている。
別にこの本はSFでないわけではないのだが、SFと言って大勢の潜在的な読者を遠ざけてしまうのが惜しいと思うのである。

私はけしてSFが嫌いなワケではない、とても好きである。 ただ、この本はもうちょっと一般受けして欲しいのである。 新潮でも角川でも講談社でもいいから『やみなべの陰謀』を出してみたらいいのに、なんて勝手な事を思っている。

ああ、そうだ内容に触れてなかった。 内容は5つの物語が語られ、その話が最後に完結?する話である。

まあいわゆるタイムトラベルものである。 しかしこの田中哲弥、非常に語り口が面白い。 句読点の使い方が面白いと思うのだが、他に読んだ方の意見はどうだろうか。

町田康の『パンク侍、斬られて候』に似ているなと思ったのだが、こっちの方も全く負けていない!ハズ。 たぶん田中哲弥さんは、実際に喋る話も滅茶苦茶に面白いのだろうなと思う。