本当にあった?みたいなヨーロッパ漂流記 『獅子の城塞』

獅子の城塞

  • 書名: 『獅子の城塞』
  • 読み: ししのしろ
  • 著者: 佐々木譲
  • ISBN: 978-4101223278
  • 発行日: 2016年4月1日
  • 発行: 新潮文庫
  • 価格: 990円(税別)
  • ページ数: 763
  • 形態: 文庫

穴太の職人である戸波次郎左(『天下城』の主人公の息子)は織田信長から「日本にヨーロッパ風の城塞を立てるためにヨーロッパで学んでこい」と命令され、天正遣欧使節団とともにヨーロッパへ渡ることになる。

ヨーロッパも日本と同じく戦乱が続き、戸波次郎左の築城技術は重宝されるが、戸波次郎左がヨーロッパに渡った直後に信長は本能寺で倒れていた・・・

イタリア、オランダと渡り歩く主人公は日本に帰ることができるのだろうか。

小説の魅力のひとつはリアル感である。本当にあったことかどうかとかフィクションかどうかというのは関係なく、物語と文章が発するホントっぽさがリアル感を生むのであり、リアル感により読者は物語に没入できるのだと思う。

宇宙人が主人公の枕元にいきなり現れて宇宙船に乗って銀河の果てまで宇宙旅行をした、みたいな話でもリアル感、つまりホントっぽさがあれば読者は物語の世界に入っていけるのだ。

で、本書であるが私は本を読んだ後にすぐGoogleの検索窓に「戸波次郎左」と入力して検索してしまった。

結果は、「獅子の城塞」か「佐々木譲」関連のページばかり出てきた。Wikipediaのページが出てくるかと思ったが、戸波次郎左は作者の創作の人物であった。

だが、しかし、本書は本当にあったことのような感じで終始書かれているので、これ信じてしまう人いるよね、私がまさにそうだ。

私が初めて読んだ小説は咲村観の『上杉謙信』だった、確か小学5年生だった。ウブな私は上杉謙信や家臣たちのセリフまでがしっかり書かれているので、これは誰かが記録してそれを作者が小説に書き直したものだろう、と当時は信じた。

でも、上杉謙信とその家来達が何を言ったかみたいな詳細な記録が残っているはずがない。つまりほとんど作者の創作なんである。

それに私が気づいたのは、20歳を過ぎたくらいの時だろうか、歴史小説はほぼ想像、というか小説という時点でフィクションなのである。「実録歴史ノンフィクション」ではなく歴史「小説」なのである。

で、本書でおどろくのがそのテンションである、ずっと同じテンションで、中だるみがないんである。書いていて驚いたのだが本書は700ページもあったのか、読んでいても長い気がしなかった。

日本の戦国時代と同時期のヨーロッパも戦争が行われているので、築城技術を持った人間が重宝されると言う視点は面白いと思う、というか戦争は今も起きていて、たまたま今の日本の国内が平和なだけか。