隆慶一郎の最高傑作はテレ朝時代劇にピッタリ 『鬼麿斬人剣』

鬼麿斬人剣

  • 書名:『鬼麿斬人剣 』
  • 著者:隆慶一郎
  • ISBN:978-4101174129
  • 刊行日:1990年4月25日
  • 発行:新潮文庫
  • 価格:514円(税別)
  • ページ数:358
  • 形態:文庫

山窩(サンカ)として生まれた鬼麿が、師匠である刀工源清麿(きよまろ/すがまろ)の駄作を折るために諸国を放浪?する非常にわかりやすい時代小説。

清麿が臨終の際に鬼麿に託した願いは、昔あるいざこざから伊賀忍軍から逃げるハメになり諸国を渡り歩いていた時に作った数打ちの刀(駄作の刀)を折る、ということ。その願いをかなえるため、鬼麿は刀探しの旅に出る。

鬼麿は名前の通りの怪物のような大男で、彼の必殺技は目をつぶって大刀を大きく振りかぶって上から打ち下ろす異色かつダイナミックなもの。鬼麿に付き従うのは山窩(サンカ)の少年・たけと伊賀の抜け忍くのいち・おりん。

鬼麿が師匠清麿の駄作を見つけるとその周りには複雑な人間模様があり、そこには大体において悪いやつがいて、駄作を折ろうとするとその悪人が邪魔をする。最後には鬼麿が悪人を叩き斬り、「ためしわざ、潜り袈裟」、「ためしわざ雁金」などの決め台詞が入る、非常にテレビ時代劇チックというかわかりやすい。本書は8話からなり、各話は大体そんなような流れで進んでいく。

見てくれは悪いけど、人情に弱くて腕っぷしが強いヒーローはテレビ朝日の時代劇枠でドラマ化したら大当たりするんではなかろうか?

隆慶一郎の代表作である『一夢庵風流記』も諸国を放浪して悪いやつをこらしめる、という似たような話だが、あの話は主人公の前田慶次郎がカッコよすぎるし、男と男の義の繋がり!とか男の生き方!みたいのが汗臭く時々しつこくて鼻につく。その点本作は非常にシンプルで男と男の義の繋がり!みたいのも出てくるには出てくるがそれが本題にはならない、主役はあくまで師匠である清麿の「刀」であり鬼麿の必殺技である。

私は隆慶一郎の作品を読むと、お腹いっぱいになってしばらく同じ作者の作品は読みたくない!となるのだが、本作は隆慶一郎作品では珍しく、続きが読みたくなった。作者自身は既に亡くなっているので続きが書かれる可能性は無いが、誰か書いてくれないだろうか続きを、宮本昌孝あたりでどうだろう。

だから、本書は私にとっての隆慶一郎の最高傑作である。(『影武者徳川家康』も捨てがたいけど)