義父さん書店 『騎手の一分』

藤田伸二 『騎手の一分』

  • 書名:『騎手の一分』
  • 著者:藤田伸二
  • ISBN: 978-4062882101
  • 刊行日:2013/5/17
  • 価格:740円(税別)
  • 発行:講談社現代新書
  • ページ数:176
  • 形態:新書

妻となる女性の両親にあいさつに行ったのが今から3年前、それから数か月後に私はその女性と結婚し、その女性の両親は私の義理の両親となった。

義理の母とは会話をするが、義理の父との会話はおそらくこの3年で通算10分も行なっていないのではないだろうか。

お互い何を言っていいのかわからない、というかお義父さん側がどう感じているかはわからないが、私は何を喋っていいのかよくわからない。合わないとか嫌いとかいうわけではないのだが、それがいわゆる、義理の息子とお義父さんの関係というものなのだろうか。

たぶん、そこらへんの道端で出会った2人であれば、会話はもっと弾んだかもしれないが、妻または娘という女性を介しての関係はなんつーか複雑なのである。

そんなギコチない2人であるが、競馬が好きなことと読書が好きという共通点がある。

ギコチない2人ながらも、私が土曜か日曜の午後に妻の実家に行くとほぼ必ず競馬中継が流れていて、姪っ子と遊んだり、お義母さんと話したりしている時でもレースの映像だけは目で追っている男2人なのである。

ゴールするとお義父さんが、私に気を遣ってなのかレースの短評などを言い、私も今の追い込み凄いですねみたいなことを返すのである。

ある日家に帰ると玄関に紙袋が置かれ、その中に文庫本がたくさん入っていた。

妻に聞くとお義父さんが古本屋に売るところを妻が私のために持ってきたようだ、ありがとう妻。

欲しいのだけ抜いたら実家に持って行ってあげて、と言われてすぐさま紙袋を開けた。

私は週に1回程度、会社の帰りにつつじヶ丘駅前の新刊書店書原に入り何かよさそうな本がないか文庫コーナーを物色するのだが、最近はお金がないため、新刊書店でチェックしてからブックオフで探したり図書館で探したりするので、欲しい新刊本はなかなか手に入らない。

でもお義父さんの捨てる予定だった文庫本たちは、私が欲しいと思っていた新刊書店の文庫本の半分くらいは網羅しているのではないかというくらいの充実ぶり。

宮本輝の流転の海の最新作の第6部をどうやって手に入れようか考えていたが、なんとその第6部が目の前に。

ああうれしい。

ありがとうお義父さん。

そんな中にあったのが本書である。

フサイチコンコルドでダービージョッキーとなった藤田のJRAに物申すというのが本書の主な内容である。

数年前までは中央競馬の出馬表に藤田の名をよく見かけたが最近では見かけなくなっていて、どうしたのかなと思っていたのだが、何やら騎手に嫌気がさして開店休業中のような状態らしい。

藤田伸二は田舎のヤンキーのあんちゃんみたいで、ジョッキーというのは押しなべてそういう面構えの人が多く、ケンカには絶対負けないかんな!という気合いの入った顔が私はキライではない。

実際馬の背中に命を賭けて乗って仕事をしている人たちなので、そういう面構えになるのだろう。

そんな愛すべきヤンキーあんちゃんが騎手という職業に嫌気がさしているのは寂しい限りだが、これがシービスケットみたいなクセのある名馬と出会い再生するみたいな話の小説が読みたい。

クライマックスは藤田伸二がなんらかの理由によりシービスケットみたいな名馬の命を救うためにアドマイヤのオーナーに頭を下げに行く場面にしたらどうか。

私のお義父さんもそんな競馬小説なら喜んで読むはずだ。