- 書名:『四角な船』
- 著者:井上靖
- ISBN:978-4101063232
- 刊行日:1977/12
- 価格:480円(税抜)
- 発行:新潮社
- 形態:文庫
やっと逢えたね。
大学時代の友人に薦められて以来、ずーっと探していた。
今はなき吉祥寺のブックステーション、今もあるよみたや、ブックオフ、神田の古書店、などなど。古本屋に入るたびに著者名のあいうえお順に並ぶ本棚の本を見上げ、「井上ひさし」の次にあるはずの「井上靖」コーナーを探した。
あるのは大体『敦煌』や『額田女王』であり、『四角な船』は見つからなかった。
その友人は「何でないの?僕はよく古本屋で見つけるけど」などと言っていたが、なぜか会う機会がずっとなかった。
なんで読みたかったかと言うとノアの方舟の話だと聞いていたからだ。
洪水伝説は世界のあちこちにあるようだが、洪水を船に乗って生き延びるという発想というかアイディアがとにかく気になったのである。
当時私は大学で西洋史を学んでいて、指導教授の専門は西アジア、つまりメソポタミア周辺であり、昔は洪水を繰り返していた地域である。
教授が授業中にたしかに伝説の元になるような洪水はあったはずである、みたいな事を言っていた。
大津波か大雨が大地を襲う、そして選ばれた人と動物たちが船に乗り込み、先の見えない航海に出発する。
目的地となる陸地があるかどうかわからない、絶望的だ。
しかし水は徐々に引いていき、舟は山の頂上に乗っかっていることに気づく・・・
今年の5月に河辺に引っ越して結婚したその友人から近くのブックスーパーいとうに『四角な船』が売られているとのメールが来た。
彼のメールには「買っておこうか?」と書かれていたが断った。
本とは出会い方が大切。
私が行った時になかったら縁がなかったのだ。それも古本探しの楽しみ。
夏の終わり、河辺の彼の家に遊びに行き、奥さんに挨拶してお昼ご飯のカレーをごちそうになって談笑をした後に、彼とそのブックスーパーいとうへ行った。
子供達向けのカードコーナーやゲームコーナーの奥に文庫コーナーに、井上靖のコーナーがある・・・そしてあった!!!
「やっと逢えたね」、辻仁成がパリで初めて中山美穂に会った時に言った言葉のようであり、2人はそのまま結婚した。
私も妻と息子に初めて会った時そう思った(言った)。
だからこの『四角な船』に対して言った「やっと逢えたね」は世界で4番目で言われたセリフということになる。
このお話は地球を大洪水が襲い、方舟に乗った人たちが苦労する話だと思っていた。
苦労の連続の航海の果てにどこに行き着くのか?そんな小説だと思っていた。
しかし、読んでみるとなかなか洪水が始まらない。船作りも一向に進まない・・・
そして方舟の製作依頼をした方舟のオーナーはなかなか姿を現さず、結局世界は終わらずにオーナーの死という形で物語は終わる。
面白い話ではあった、しかし私の想像していた手に汗握る人類対洪水の戦いは見られなかった。
しかしこんな「やっと逢えたね」もあるのだ。