ひどく落ち着く、軟着陸みたいな 『新版 貧困旅行記』

つげ義春 『新版 貧困旅行記』

  • 書名:『新版 貧困旅行記』
  • 著者:つげ義春
  • ISBN:978-4101328126
  • 刊行日:1995/3/29
  • 価格:590円(税別)
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:281
  • 形態:文庫

確か、大学時代に学校の生協で買って、それ以来数年に一度は読んでいる一冊だ。

蒸発をして九州の看護婦に会いに行く話から始まり、家族3人での旅行の話などが綴られていく。

つげ義春は漫画家であるが、この人の面白いところは漫画からでも文章からでも、そこから感じる印象がほとんど変わらないということである。

最初に読んだ時に文章がうまいなぁと思って、漫画はどんなの描くのだろうと興味を持ち漫画を読んだのだが、なんだろう、独特の間合いというかなんというかその、あれ俺は文章読んでいたのか、いや違う漫画だったかと気づくのだ。

私の好きなつげ義春の作品は家族が出てくるものである、若き日の妻とのお話の『日の戯れ』、『退屈な部屋』などは毎回読むたびにいいなぁと思う。

一人息子が出てくる『散歩の日々』、『無能の人』などは私がひとりっ子の三人家族だったせいか、読むと少年時代を思い出す。

私はつげの一人息子の正助に自分を投影するのだ。

この貧困旅行記にも家族の旅が出てくるが、これ、読むたびに私の子供時代の家族三人での旅行を思い出し、わが父(つげ)はこんなことを考えていたのかななどと思うのである。

今は、我が家も三人家族となり、私の視点は息子(正助)のモノから父(つげ)側のモノに移りつつあり、まあなんというか『無能の人』には憧れるけど、ああはならないようにと転職活動頑張ろうと決意を新たにするのである。