義父さん書店 『騎手の一分』

藤田伸二 『騎手の一分』

  • 書名:『騎手の一分』
  • 著者:藤田伸二
  • ISBN: 978-4062882101
  • 刊行日:2013/5/17
  • 価格:740円(税別)
  • 発行:講談社現代新書
  • ページ数:176
  • 形態:新書

妻となる女性の両親にあいさつに行ったのが今から3年前、それから数か月後に私はその女性と結婚し、その女性の両親は私の義理の両親となった。

義理の母とは会話をするが、義理の父との会話はおそらくこの3年で通算10分も行なっていないのではないだろうか。

お互い何を言っていいのかわからない、というかお義父さん側がどう感じているかはわからないが、私は何を喋っていいのかよくわからない。合わないとか嫌いとかいうわけではないのだが、それがいわゆる、義理の息子とお義父さんの関係というものなのだろうか。

たぶん、そこらへんの道端で出会った2人であれば、会話はもっと弾んだかもしれないが、妻または娘という女性を介しての関係はなんつーか複雑なのである。

そんなギコチない2人であるが、競馬が好きなことと読書が好きという共通点がある。

ギコチない2人ながらも、私が土曜か日曜の午後に妻の実家に行くとほぼ必ず競馬中継が流れていて、姪っ子と遊んだり、お義母さんと話したりしている時でもレースの映像だけは目で追っている男2人なのである。

ゴールするとお義父さんが、私に気を遣ってなのかレースの短評などを言い、私も今の追い込み凄いですねみたいなことを返すのである。

ある日家に帰ると玄関に紙袋が置かれ、その中に文庫本がたくさん入っていた。

妻に聞くとお義父さんが古本屋に売るところを妻が私のために持ってきたようだ、ありがとう妻。

欲しいのだけ抜いたら実家に持って行ってあげて、と言われてすぐさま紙袋を開けた。

私は週に1回程度、会社の帰りにつつじヶ丘駅前の新刊書店書原に入り何かよさそうな本がないか文庫コーナーを物色するのだが、最近はお金がないため、新刊書店でチェックしてからブックオフで探したり図書館で探したりするので、欲しい新刊本はなかなか手に入らない。

でもお義父さんの捨てる予定だった文庫本たちは、私が欲しいと思っていた新刊書店の文庫本の半分くらいは網羅しているのではないかというくらいの充実ぶり。

宮本輝の流転の海の最新作の第6部をどうやって手に入れようか考えていたが、なんとその第6部が目の前に。

ああうれしい。

ありがとうお義父さん。

そんな中にあったのが本書である。

フサイチコンコルドでダービージョッキーとなった藤田のJRAに物申すというのが本書の主な内容である。

数年前までは中央競馬の出馬表に藤田の名をよく見かけたが最近では見かけなくなっていて、どうしたのかなと思っていたのだが、何やら騎手に嫌気がさして開店休業中のような状態らしい。

藤田伸二は田舎のヤンキーのあんちゃんみたいで、ジョッキーというのは押しなべてそういう面構えの人が多く、ケンカには絶対負けないかんな!という気合いの入った顔が私はキライではない。

実際馬の背中に命を賭けて乗って仕事をしている人たちなので、そういう面構えになるのだろう。

そんな愛すべきヤンキーあんちゃんが騎手という職業に嫌気がさしているのは寂しい限りだが、これがシービスケットみたいなクセのある名馬と出会い再生するみたいな話の小説が読みたい。

クライマックスは藤田伸二がなんらかの理由によりシービスケットみたいな名馬の命を救うためにアドマイヤのオーナーに頭を下げに行く場面にしたらどうか。

私のお義父さんもそんな競馬小説なら喜んで読むはずだ。

転職決まらず貧する私 『身体のいいなり』

karadanoiinari

  • 書名:『身体のいいなり』
  • 著者:内澤旬子
  • ISBN:978-4022617767
  • 刊行日:2013/8/7
  • 価格:580円(税別)
  • 発行:朝日文庫
  • ページ数:254
  • 形態:文庫

乳がんが見つかり、乳房の摘出手術をするまでの色々なゴタゴタと思いが綴られたのが本書。『世界屠畜紀行』では家畜の解体現場を見ても特にショックを受けなかった著者も、自分の体にメスが入るのには抵抗があるようで、全身麻酔をしての手術場面を読んでいて私も金玉およびお尻のあたりがむずがゆくというかヒョエーとなった。

病気と闘うにはお金が必要ということがヒシヒシと感じられ、現在の私が大きな病気になってしまったら私および家族はどうすればいいのだろうかと、しばし呆然とした。

今年の春に給料が下がり、それに伴ってお小遣いが下がり、そんなんではやっていけないと夏にビデオカメラを売ったお金を日々のお小遣いの足しにしてきたのだが、12月で遂になくなりそうである。

12月には忘年会が2つ、イベントごとが少し、それで破綻してしまう。

今年の夏の時点では12月には次の仕事が決まっていて給料も元の額に戻っているというもくろみだったが、いまだに新しい仕事は決まらず。

先週末は1か月ぶりに仕事の面接に行ってきた、結果はまだ来ていないが断ろうと思っている。

残業時間が今とあまり変わらないのと、給料も下がりそうな点、そして社長と合わなさそうというのが一番大きな理由だ。

週末に家族で近くの街に買い物に行ってきたのだが、私のサイフには2,000円ちょっとしか入っていなかった。

街まで歩いている時に、

「来月はクリスマスだから息子と姪っ子にクリスマスプレゼントを買ってやるんだ!」

と妻に宣言した。

すると

「じゃあ息子には私が何か買ってあげるから、あんたは姪っ子に買ってあげて、2,000円の可愛いあったかいコートがあったからそれね」

と返された。

私は来月のクリスマスまでに、私の残り少ないガラクタのような資産(本とか・・・)を売り払ってお金を作ろうと思っていたので、いまいきなりの2,000円はきつい。

でも、払えると言った手前、「今出せない」とも言えず、買い物先の洋服屋さん(しまむら)でサイフをから2,000円を出したのである。

その後、お昼を食べようとなりショッピングセンター内にある「はなまるうどん」に並んだのだが、私のオサイフにはもう支払い能力がなく、妻にお金を払ってもらい家族で1杯のきつねうどんを食べたのである。

さらに、同じ週末。

家族3人で私の実家に行った。

11月の終わりは私の誕生日であるので、母親からプレゼントをもらえるのでは?と期待したがそんなものはなかった。

息子や姪っ子へのプレゼント代にひいこら言っている身なので、母親から何かもらえれば(特にお金を希望)すごく助かると愚かな息子は思ったのである。

しかし、そもそも息子や姪っ子へのプレゼントによって減ったお金を自分の親からの援助で何とかしようと思っていること自体虫が良すぎるのであり、そうは問屋が卸さないのである。

まあしかし、プレゼント問題はなんとかうやむやになったが、問題は12月の忘年会であり、どうしようか。

私の本を売ったところでホントウに二束三文であり、本当に困った。

日本国民のみならず、世界の人民達の所持金および貯金額が100円程度にならないかと切に願う毎日なのである。

そうすれば1万円持っているだけで大金持ちになるという素晴らしいアイディア。

早くいい仕事見つけろよ。

逃げ出したい気持ち 『監獄ラッパー』

監獄ラッパー B.I.G.JOE

  • 書名:『監獄ラッパー』
  • 著者:B.I.G. JOE
  • ISBN:978-4101260815
  • 刊行日:2014/8/1
  • 価格:520円(税別)
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:270
  • 形態:文庫

オーストラリアに薬物を密輸したことで逮捕された日本人ラッパーの獄中記が本書。

異国の地の刑務所での日々がつづられている。

獄中記を読むと、刑務所の中と比べてシャバにいる今の自分の境遇がいかに恵まれているかということに気づき、ガンバらなきゃいかん!と思うのだが、今回はそうはいかなかった。

潰れそうな会社で、めげてしまいそうな気持ちをエンヤコラと必死で正常に保とうとしつつ転職活動をしている私から見ると、刑務所でのシンプル?に見える生活がうらやましかった。

刑務所の中が私の今いる環境よりいいわけはないのだが、なんというか、うーん。

会社を建て直すというような気概もなく、ダラダラとやる気のない状態で今の会社に勤め続けているという状況が私の精神に打撃を与え続けている。

早く転職したい、でも今より給料がいいところを見つけられない。

このまま転職できずに会社が潰れて・・・

会社から逃げ出したいという気持ちを押し殺しつつ無理している私が、刑期を終わらせて日本に帰ろうという強い意志を持っている筆者を見るととにかくまぶしいんだ。

米粒の悩み 『ご先祖様はどちらさま』

ご先祖様はどちら様 高橋秀実

  • 書名:『ご先祖様はどちらさま』
  • 著者:高橋秀実
  • ISBN:978-4101335568
  • 刊行日:2014/9/1
  • 価格:520円(税別)
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:274
  • 形態:文庫

現在も私の転職活動は絶賛進行中である。

10日ほど前に同僚がリストラされ辞めていった。

彼の業務がすべて私の業務となった。

その同僚がいる時は仕事をサボって面接に行ったりもできたのだが、細切れの、でもやらなくてはならない電話対応やら発送業務やらサポート業務が回ってきて大変である。

モチベーションもあがるはずもなく、どんよりとした気分で日々過ごしている。

会社は今年いっぱいは給料が出るようだが、来年はよくわからない。

わが社のお金の流れの話を聞くたびに、これではダメだろうという思いが強くなっている。

昼休みになると弁当を自分の席で素早く食べて、会社のイヤな雰囲気から一刻も早く抜け出し、近所の神社の境内に座り、スマホで転職サイトの情報を指でクイックイッとしている。

まだ会社にその同僚がいる時にプログラマの面接に行った。

しかし、給料面で折り合わず破談となった。

ネックはとにかく給料面である。

結婚していて子供がいて、現状で妻が専業主婦となると、給料の額は今より落とせない。

現状で私の自由になる1か月のお小遣いはちょうど1万円なのだが、1万円月給が下がると、私のお小遣いはゼロとなる。

家族貯金などを削ればいいと思うのだが、なんつーか、それは言えない。

意地なのかなんなのか。

高橋秀実は毎回面白いテーマで文章を書いているが、本書は自分の先祖に興味を持ち、そのルーツをなんとかたどってみたら高貴な血筋にたどりついた、というお話である。

自分の両親は2人、祖父母は4人、その前の世代は8人、16人と4世代辿っただけでご先祖は倍々に増えていき、30世代遡ると1,073,741,824人(10億人!)となる。

さらに、これは30世代目だけの数だから、1から29世代目を含めるともっと多い。

だから自分のご先祖になんらかの高貴な血が入っているのは当たり前なのである。

それだけのご先祖様がいることを考えると転職して給料が下がるかもみたいな話は米粒みたいなもんなのであり、転職などどうでもいいし、1万円給料が下がっても別に誰も悲しまないし、そんなの気にするなみたいな気持ちになるが、やはり私自身は十億とか何百億という数のうちの一つの米粒であり、米粒は米粒なりの悩みがあるから、さあ大変だ。

働く喜びってなんだろう。 『新装増補版 自動車絶望工場』

新装増補版 自動車絶望工場

  • 書名:『新装増補版 自動車絶望工場』
  • 著者:鎌田慧
  • ISBN:978-4062770392
  • 刊行日:2011/9/15
  • 価格:629円(税別)
  • 発行:講談社文庫
  • ページ数:384
  • 形態:文庫

数年前に購入し、何回か読もうと思って手に取ったが「絶望」という文字が目に飛び込んできてイヤな気分になったの読まずここまで来た。

会社の業績不振により、減給をされ、さらに会社自体も数ヶ月先がどうなるか見えない。

2年前に上司との関係から精神的に参ってしまい、それ以降ずっと転職活動を続けているが、

まだ踏ん切りがつかない。

そんな時の会社の業績不振であり、給料カット。

私が辞めるのが先か、会社がつぶれるのが先か?

というチキンレースをしている。

その間にも気の早く賢い同僚達数人は会社を去っていった。

メンバーが減ると業務にしわ寄せが来る。

もうどうしようか・・・

という現在の私の状況へのヒントがあるかもしれないと思い、読もうと思って手に取ってはやめていた本書を読んでみる気になったのである。

ルポライターである筆者が季節工(期間限定の工員)としてトヨタの自動車工場で働いた記録が本書。

トヨタの自動車工場での奴隷のような労働が細かく書かれているが、自分の今の状況と比較するとそこまで変わらないのではないかと思ってしまう。

絶望は「希望」というものがまったく無い状態のことだが、私も仕事をしているとそのような気持ちになってくる。

上司に逆らえない状況でつぶれそうな会社で減給されながら働く、というのは絶望とまでは行かないが、絶望にちょっと近づいているように感じる。

働く喜びってなんだろう。と帯に書いてある。

確かに。

なんだろうか。

働く喜びって。

会社に入った当時は楽しかった、尊敬する上司に一応希望通りの仕事。

私が今ほしいと思っているのは働く喜び、ではなく、まずは安心感と、安定した気持ちだ。

来年の今頃、私は何をしているのだろうか。

強くてキラキラした戦国ニューヒーローの誕生 『剣豪将軍義輝』

義輝

  • 書名:『剣豪将軍義輝』「上巻 鳳雛ノ太刀」「中巻 孤雲ノ太刀」「下巻 流星ノ太刀」
  • 著者:宮本昌孝
  • ISBN:上巻978-4198934613、中巻978-4198934620、下巻978-4198934637
  • 刊行日:2011/11/2
  • 価格:上巻701円(税込)、中巻741円(税込)上巻771円(税込)
  • 発行:徳間文庫
  • ページ数:上巻362、中巻406、下巻541
  • 形態:文庫

数年前に戦国小説『ふたり道三』を読んで、宮本昌孝のファンになった。それから同じ作者の『風魔』を読んだが、羽柴秀吉が織田信長の後を継いでからの時代のお話なので血湧き肉踊らなかった。

戦国時代で一番輝いていた一番の有名人と言えば誰が何と言おうと織田信長であり、それ以外の方々は刺身のツマみたいなものである。

特に面白みの無いのが羽柴秀吉と徳川家康で、ふたりとも悲劇的な死に方をしていないせいか結末を知るものとしてはドラマに緊迫感を感じにくい。

さらに2人とも信長の偉業を運よく受け継いだだけであり、親の七光り感は否めない。(七光りと言えば信長もそうだし、秀吉にも家康にもいろんな事情があるのは承知の上ですが)

その信長のお話の第一のクライマックスは桶狭間の合戦である、弱小大名である信長が東海道の覇者今川義元を寡勢で討ち取る。

この桶狭間で勢いを得た信長は越前の朝倉家を討とうとするのだが、またピンチに陥る。妹婿の近江の浅井長政が裏切るのである、これが金ヶ崎の退陣に繋がり、なんとか命拾いした信長は姉川で朝倉・浅井の連合軍を破る。

と、数多くのピンチと勝利を経て信長はあの本能寺の変に突き進んでいくのである。

ピンチ→勝利→そして悲劇とお話のタネがたくさん、血湧き肉踊るモロモロがたくさんなのが信長のお話である。

この戦国の代表者でありヒーローが生きている時代が戦国時代の中で一番面白いと、私は思うのだ。

だから戦国小説を読むときは信長以前なのか、信長と同時代なのか、それとも信長以降なのかで小説に対する期待度が違ってくる。

だから、たまに信長がほとんど出てこないのに面白い小説があったりすると驚くのである。その代表作が宮本昌孝の『ふたり道三』であった。(少しだけ出てくるんだけども)

信長を(ほとんどというか主役に)使わずにこれだけヒリヒリとハラハラとドキドキとする戦国小説は今まであっただろうか?と私は大興奮した。

斉藤道三という有名だけども、戦国群雄たちの中ではずるがしこいオジサンというイメージのアンチヒーローの物語だったがとにかくスゲー面白かった。

斉藤道三が実は2人いたという設定から親子の争闘の物語と、秘剣櫂扇をめぐるめくるめくチャンバラ忍術ごっこが展開されていく。

そこで、本作である。本作の始まるのは桶狭間よりも前、つまり信長以前(信長はすでに生まれているけど、桶狭間以前が信長以前か)である。期待は高まる。足利義輝は信長とどう絡むのか、それが本作に対する私の期待である。

そして、本作も親子の争闘の物語と、秘剣と最強の剣豪をめぐるめくるめくチャンバラ忍術ごっこが展開されるのである。

意外な親子と、チャンバラ忍術を重ねるという宮本昌孝の王道パターン?がここでも展開される。

義輝は信長とどう絡むのか?それは読んでからのお楽しみである。

惜しむらくはちょっと短すぎること(充分に長いんだけど)。そもそも実録小説でもなく、ふたり道三のようなキリキリ感も必要ないのだから、琉球、九州、北海道まで廻国修行していろんな事件を解決!みたいな形式にして全10巻くらいで刊行しても面白かったのではないかと思ったのだが、義輝は松永久秀に殺される運命にあるので、読者には終わりがわかっている、なのでその分切ないのだ。

で、そのことが物語にヒリヒリ感を生みだしている。私は本作を読んでいる途中で、何度も結末がハッピーエンド、つまり足利義輝が松永久秀に殺されずに生き延びて、浮橋や朽木鯉九郎、梅花に石見坊玄尊と小四郎、明智十兵衛(光秀)と共に日本全国で悪者をバッサバッサとなぎ倒して欲しいなと思ったものだが、読者に主人公を生き延びさせてあげたいと思わせる一つの原因は、主人公に悲劇的な最期が待っていることの裏返しでもある。

つまり、悲劇の主人公であるがゆえに、義輝は愛され、物語も愛されることになるのだ。だから、やっぱり義輝は生き延びないのである、ネタバレになるけど。でも義輝がどこかで生き延びていて欲しいと願う読者の気持ちは、義輝の息子が活躍する続編『海王』で少しだけ実現している。

で、二条御所での松永久秀の軍勢との最期の戦いを読んでいて、作者はこのパートを一番書きたかったのではないかと思ったのである。何故なら、戦国のニューヒーローは既存のヒーローである信長を超えなくてはいけない、その信長の最期の場所がどこだったかと言うと京都の本能寺なのである。

つまり、ニューヒーロー義輝は本能寺の近くの二条御所で信長と似たような最期を遂げるのである。時代的には前後しているのだが、逆に言えば信長の前には義輝がいたのだという意味にも取れる。

で、作者はさらに義輝に対する権威付けとして、まあ義輝は既に将軍なので権威付けというのは矛盾した言い回しになるのだが、つまり戦国ニューヒーローとしてのハクを付けるという意味で、戦国の三傑(もちろん信長、秀吉、家康)が義輝の才能に惚れるという描写を物語中に挿入している、さらに戦国のアンチヒーローである松永久秀と明智光秀も義輝を大器として一目置いているという描写を入れるのを忘れない。

もちろん明智光秀は義輝の味方なので、アンチヒーローではないのだが、彼が信長を好いていなかったという描写を入れることで本能寺の変の謎に対する伏線も入れている。もちろん本書では本能寺の変は描かれないので、その伏線は回収されないのだが、まあとにかく続編を意識したような持って行き方は、うーんうまいぞ!

うーむ、なんつーか、翻訳のせいにはしたくないけど 『ZOO CITY』

zoo city

  • 書名:『ZOO CITY』(ズーシティ)
  • 著者:ローレン・ビュークス
  • 翻訳:和邇桃子
  • ISBN:978-4150119065
  • 刊行日:2013/6/20
  • 価格:860円(税抜)
  • 発行:ハヤカワSF文庫
  • ページ数:447
  • 形態:文庫

殺人を犯すと一頭の動物と一緒に暮らすことになる、という面白い設定の本書。

その動物憑きの女性が南アフリカのヨハネスブルグで、ある双子ポップミュージシャンの片割れを追うという探偵ハードボイルドモノである。

期待して読んだが、翻訳のせいなのか、実際の文体のせいなのか、とにかくわかりにくい。

何が起きているのか、誰がしゃべっているのか・・・

実際に訳が悪いのか、そもそもの原書が悪いのかはわからないので断言をするのはイヤだけども、うーん、この作者と訳者の作品は今後買わないと思った読書だった。

さ迷える33歳-転職大変記

はじめてのAndroidアプリ開発―Android4対応版 (TECHNICAL MASTER)

  • 書名:『はじめてのAndroidアプリ開発―Android4対応版 (TECHNICAL MASTER)』
  • 著者:山田祥寛
  • ISBN:978-4798035857
  • 刊行日:2012/12/1
  • 価格:3,000円(税別)
  • 発行:秀和システム
  • ページ数:563
  • 形態:大型本

現在勤めている会社の業績はまだよくならない。

春の時点ではこのまま行ったら夏はやばいという話だったが、まだ潰れていない。

すぐ潰れるかどうかはよくわからなくなってきたが、転職活動を続けている。

先日面接を受けに行ったところで、「アプリ3つくらい作って持ってきてくれればいいだんけど」と、そこの会社の社長に言われた。

私は経験のほとんど無いプログラマに転身しようと考えているのだが、私を採用する方からすると私の実力は未知数、というかゼロに見えるだろう。

こんなプロジェクトに関わりました、こんなアプリケーション作りましたというのがあればいいのだが私にはそれがほとんど無いのだ。

だからどんなアプリケーションを作れるのかを知りたいのは当たり前である。

で、その発言である。

その会社は不採用となったのだが、理由を聞いてみたところ実力未知数の私に払える給料と私が要求する給料に大きな開きがあったからとのことであった。

そりゃあそうだ。

なのでこれからの面接に備えて、私の実力をわかってもらうアプリを作ることにした。

この本を買って、休日プログラマーとなり、鋭意アプリ作成中である。

そんな鋭意作成中の身で、また面接に行ってきた、そこは転職サイトで私に2度ほどラブコールを送ってきたところでさらに前職の給与を保証!と書いてあった、まあそんなに言うなら行ってやろうかという上から目線な気持ちで面接に臨んだ。

そこの会社は手書きの履歴書を持って来いというので、親しい仲からもそうでもない人たちからも悪筆で有名な私が3枚ほど履歴書用紙をムダにして3時間ほどかかっていつもならワードで数秒で出力してしまう履歴書を書き上げた。

書き上げた履歴書の文字は蛇がのたくったというか、あいうえおを覚え立ての小学1年生でもこうはなるまいという出来栄え。

これでは落ちるかなと思ったがそこは私に2度もラブコールを送ってきた会社なので大丈夫だろうと思って恵比寿にあるその会社にスーツを着て汗だくになりながら行ってきた。

まず面接の前に適正試験があった、だがプログラミング初心者レベルの私にはわからない。

でもそこは私に2度もラブコールを送ってきた会社なので大丈夫と思い、適当な答えを書いて提出して面接へ。

社長とその部下が出てきて色々説明してくれる。

私に2度もラブコールを送ってきただけあって、私にどんなポジションについて欲しいだとかいちいち詳しい。

何でうちの会社に面接に来たの?2度もラブコール送ったからもあると思うけど、と聞かれたので正直に今と同じレベルの給料がもらえそうと答えた。

あまりこういう答え方はよくないという気がしたが、それは2度ラブコールの会社である。

大丈夫だと思った。

そして最後に社長がオヤ?と思う一言を言った。

プログラマーとしての実力が心配・・・と。

やっぱり。

結局この会社は落ちた。

実際、合格しても行くかどうかは迷っていたと思うが、特に好みじゃないけどあっちがこっちのこと好きそうだったから軽い気持ちで一回飲みに言ったら、翌日メールで一方的に振られたような気持ちである。

「私、あなたとは合わない。ごめんなさい」

と。こっちから何も言っていないし好みじゃないし、てかごめんなさいって何で謝るのか?

そんなこと言われると、俺は君のこと好きだったのかもなんて考えだして、ロンリーハート、君じゃなきゃダメなのに、みたいな気持ちになってくるから不思議である。

というか本気じゃないぶん、恋愛ごっこみたいなメールのやり取りをするとあまり傷つかないのに感傷的な気分だけにはなれるからそれはそれで青春の1ページとして美しい思い出となり、本気の大恋愛でもなんでもない分、あとあと思い出してはその度にその子にメールなんかしちゃって、返ってくるのはもちろんそっけないメール。

そうされると結構気になってきて、やっぱしオレは君の事好きだったのかも、というか最初は俺に気があったよね、その時の気持ちに戻ってくれ!なんて思い始める、ああ困ったチャン。

なんでキスしなかったのか、なんで抱きしめなかったのか、おお、あの時のオレおバカちゃん、などと考え始めるのだが、そんな風に思っているのがおバカちゃんなのであって、あの時のオレは結構冷静であったはずなのである。

と、さ迷える33歳、もうすぐ34歳の転職活動は続く。

町の本屋 of 京王線つつじヶ丘 『世界屠畜紀行 THE WORLD'S SLAUGHTERHOUSE TOUR』

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  • 書名:『世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR』
  • 著者:内澤旬子
  • ISBN:978-4043943951
  • 刊行日:2011/5/25
  • 価格:857円(税別)
  • 発行:角川書店
  • ページ数:478
  • 形態:文庫

京王線のつつじヶ丘駅の近くに引っ越してきて5ヶ月が経った。

駅の周りにはオオゼキとライフというスーパーが2つ、ドラッグストアー、ドトール、マクドナルド、松屋、ゲオなどが並んでいて、典型的な東京郊外の私鉄駅前の風景である。

北口駅前のロータリーの奥にあるビルの前に幅の広い下り階段があり、その階段の下に書原という書店がある。

あれは私が大学2年生の時だったか、棚卸しのアルバイトをしたのも書原だった。

たしか月島店と阿佐ヶ谷店と霞ヶ関店?(銀座だったような記憶もあるが、公式サイトによると書原は銀座には無いみたい)の3店舗で計3日間の棚卸し作業をした。

2組になって、閉店中の店の中でリストに従って本をチェックしていく仕事だった。

新刊書店の本というのは結構きれいだと思っていたが、すぐに手が汚れてしまい、ずっと置いておけばそりゃ少し汚れるよなと思った記憶がある。

最終日は阿佐ヶ谷店で、仕事が終わって店の裏で給料をもらい(確か3万円くらい)、翌日にそのお金を持ってPlayStation2の本体を新宿に買いに行ったのである。

あれは初めての給料みたいですごく嬉しかった。

という私とは縁のある本屋さんが書原なのである。

棚卸しのバイト以降は縁が無かったが、今では私の家から一番近い本屋となった。

店の雰囲気は、由緒正しい町の本屋(ちょっと大きめの)。

ブックファーストやジュンク堂などとは違い、時間が10年ほど止まっている、と言ったら怒られるので、正しく町の本屋の伝統を守っていると言い換えよう。

私は書原つつじヶ丘店に入ると文庫コーナーに直行する。

書原つつじヶ丘店の文庫コーナーには新刊専用の場所は設けられておらず、各棚の前の平積みコーナーに紛れ込んでいるので見落とすことが多いので注意である。

おやと思ったのが上下巻のあるもので、普通だと上下巻は隣り合って平積みされているが、ここだと上下巻が重なって交互に置かれている。

だから上巻のみを買おうとすると下から下巻が出てきて、「あれ?下巻は買わないの?」と、お客に無言の圧力をかけるのである。

これはスペースの有効活用になるだけでなく、売り上げのアップにも貢献しているのだろう。

文庫コーナーの顔ぶれはそう簡単には変わらない。

そんな中に少しほこりをかぶって鎮座していたのが文庫版『世界屠畜紀行』であった。

数年前から探していたのだが、新刊書店では見つからず、かといって古本屋でも見つからず、忘れかけていたのだがこんなところで出会えるとは。

本書は著者の内澤旬子が屠畜に興味を持ったのをキッカケに韓国、インド、インドネシア、アメリカなどの屠畜事情をレポートしたものである。

筆者自身のイラストが添えられ屠畜の様子がよくわかる。

屠畜に関わる人間に対してのタブーの感覚はどうやって生まれるのか?というのがメインテーマになっていて、読んでいてウーンウーンと唸った。

特にオチも無いのだがつつじヶ丘の書原が好きになった、という話である。

JAVAの試験に合格したけど、戦争は起きないよね? 『下天を謀る』

下天を謀る(上) 安部 龍太郎 新潮文庫

下天を謀る(下) 安部 龍太郎 新潮文庫

  • 書名:『下天を謀る(上・下)』
  • 著者:安部龍太郎
  • ISBN:978-4101305257(上) 978-4101305264(下)
  • 刊行日:2013/4/27
  • 価格:上下ともに724円(税込)
  • 発行:新潮社
  • ページ数:455(上) 487(下)
  • 形態:文庫

JAVAの試験に合格した。

レベルとしては一番下のJAVA Bronze SEだ。

でもうれしい。

次はSilverだ。

そして転職活動だ。

わが社の業績は特によくならず、給料も戻らない。

早く転職しなくてはならない。

という時期に読んだのが『下天を謀る』。

図書館で借りた。

図書館でタダで借りたものをあーだこーだ言うのはあまりよくないとは思うが、許してください。

主人公は戦国時代から江戸時代を生きた藤堂高虎。

羽柴秀長に仕え、その死後は徳川家康に仕えた武将・政治家である。

戦国時代は織田信長の入京(1568年)を持って終わるという説が有力なようだ。信長が今川義元を破った桶狭間の戦いが1560年なのでその8年後に戦国時代は終わってしまうのである。

藤堂高虎はその戦国時代の終わり頃に、信長に滅ぼされることになる浅井家でデビューする。しかし織田信長が戦国時代にケリをつけてしまったあとのお話はどうも、気が抜けた感じがする。

織田信長は本能寺の変で倒れるのだが、信長の領国やらのほとんどを引き継いだ秀吉が、信長の勢いを借りて内輪揉めを制して天下を統一、そして秀吉が死んだ後にこれも信長の子分であった徳川家康が耐えて耐えて天下をもぎ取る。

その流れの中で藤堂高虎が秀吉の弟の秀長の家臣から家康の家臣となり、徳川体制を磐石なものにしていくというのがこのお話であった。

安部龍太郎は『蒼き信長』で桶狭間の戦いまでの信秀・信長父子の血沸き肉踊る戦国乱世の獲った獲られたを描き、私は大いに興奮した。今回もそれを期待したのだが、そもそも主人公は戦国時代が終わってから活躍する藤堂高虎である。あまり興奮はしない読書となった。

という時に自民党が「集団的自衛権の行使容認を閣議決定」した。

今すぐに戦争が起きたり、どこかの国を侵略したりすることは無いとは思うが、安部首相の生き急ぐような強引ぶりはどこかの国の昔の太閤が死の間際に文禄・慶長の役を引き起こしたのと少し似ているようでなんつーか、いい感じはしない。

自民党に投票した人たちは責任を持って安部首相を止めるよーに、そして自民に負けてしまった野党に投票した人も責任を持って安部首相を引きずり下ろす力を持った勝てる野党にしっかり投票するよーに。