
- 書名:『剣豪将軍義輝』「上巻 鳳雛ノ太刀」「中巻 孤雲ノ太刀」「下巻 流星ノ太刀」
- 著者:宮本昌孝
- ISBN:上巻978-4198934613、中巻978-4198934620、下巻978-4198934637
- 刊行日:2011/11/2
- 価格:上巻701円(税込)、中巻741円(税込)上巻771円(税込)
- 発行:徳間文庫
- ページ数:上巻362、中巻406、下巻541
- 形態:文庫
数年前に戦国小説『ふたり道三』を読んで、宮本昌孝のファンになった。それから同じ作者の『風魔』を読んだが、羽柴秀吉が織田信長の後を継いでからの時代のお話なので血湧き肉踊らなかった。
戦国時代で一番輝いていた一番の有名人と言えば誰が何と言おうと織田信長であり、それ以外の方々は刺身のツマみたいなものである。
特に面白みの無いのが羽柴秀吉と徳川家康で、ふたりとも悲劇的な死に方をしていないせいか結末を知るものとしてはドラマに緊迫感を感じにくい。
さらに2人とも信長の偉業を運よく受け継いだだけであり、親の七光り感は否めない。(七光りと言えば信長もそうだし、秀吉にも家康にもいろんな事情があるのは承知の上ですが)
その信長のお話の第一のクライマックスは桶狭間の合戦である、弱小大名である信長が東海道の覇者今川義元を寡勢で討ち取る。
この桶狭間で勢いを得た信長は越前の朝倉家を討とうとするのだが、またピンチに陥る。妹婿の近江の浅井長政が裏切るのである、これが金ヶ崎の退陣に繋がり、なんとか命拾いした信長は姉川で朝倉・浅井の連合軍を破る。
と、数多くのピンチと勝利を経て信長はあの本能寺の変に突き進んでいくのである。
ピンチ→勝利→そして悲劇とお話のタネがたくさん、血湧き肉踊るモロモロがたくさんなのが信長のお話である。
この戦国の代表者でありヒーローが生きている時代が戦国時代の中で一番面白いと、私は思うのだ。
だから戦国小説を読むときは信長以前なのか、信長と同時代なのか、それとも信長以降なのかで小説に対する期待度が違ってくる。
だから、たまに信長がほとんど出てこないのに面白い小説があったりすると驚くのである。その代表作が宮本昌孝の『ふたり道三』であった。(少しだけ出てくるんだけども)
信長を(ほとんどというか主役に)使わずにこれだけヒリヒリとハラハラとドキドキとする戦国小説は今まであっただろうか?と私は大興奮した。
斉藤道三という有名だけども、戦国群雄たちの中ではずるがしこいオジサンというイメージのアンチヒーローの物語だったがとにかくスゲー面白かった。
斉藤道三が実は2人いたという設定から親子の争闘の物語と、秘剣櫂扇をめぐるめくるめくチャンバラ忍術ごっこが展開されていく。
そこで、本作である。本作の始まるのは桶狭間よりも前、つまり信長以前(信長はすでに生まれているけど、桶狭間以前が信長以前か)である。期待は高まる。足利義輝は信長とどう絡むのか、それが本作に対する私の期待である。
そして、本作も親子の争闘の物語と、秘剣と最強の剣豪をめぐるめくるめくチャンバラ忍術ごっこが展開されるのである。
意外な親子と、チャンバラ忍術を重ねるという宮本昌孝の王道パターン?がここでも展開される。
義輝は信長とどう絡むのか?それは読んでからのお楽しみである。
惜しむらくはちょっと短すぎること(充分に長いんだけど)。そもそも実録小説でもなく、ふたり道三のようなキリキリ感も必要ないのだから、琉球、九州、北海道まで廻国修行していろんな事件を解決!みたいな形式にして全10巻くらいで刊行しても面白かったのではないかと思ったのだが、義輝は松永久秀に殺される運命にあるので、読者には終わりがわかっている、なのでその分切ないのだ。
で、そのことが物語にヒリヒリ感を生みだしている。私は本作を読んでいる途中で、何度も結末がハッピーエンド、つまり足利義輝が松永久秀に殺されずに生き延びて、浮橋や朽木鯉九郎、梅花に石見坊玄尊と小四郎、明智十兵衛(光秀)と共に日本全国で悪者をバッサバッサとなぎ倒して欲しいなと思ったものだが、読者に主人公を生き延びさせてあげたいと思わせる一つの原因は、主人公に悲劇的な最期が待っていることの裏返しでもある。
つまり、悲劇の主人公であるがゆえに、義輝は愛され、物語も愛されることになるのだ。だから、やっぱり義輝は生き延びないのである、ネタバレになるけど。でも義輝がどこかで生き延びていて欲しいと願う読者の気持ちは、義輝の息子が活躍する続編『海王』で少しだけ実現している。
で、二条御所での松永久秀の軍勢との最期の戦いを読んでいて、作者はこのパートを一番書きたかったのではないかと思ったのである。何故なら、戦国のニューヒーローは既存のヒーローである信長を超えなくてはいけない、その信長の最期の場所がどこだったかと言うと京都の本能寺なのである。
つまり、ニューヒーロー義輝は本能寺の近くの二条御所で信長と似たような最期を遂げるのである。時代的には前後しているのだが、逆に言えば信長の前には義輝がいたのだという意味にも取れる。
で、作者はさらに義輝に対する権威付けとして、まあ義輝は既に将軍なので権威付けというのは矛盾した言い回しになるのだが、つまり戦国ニューヒーローとしてのハクを付けるという意味で、戦国の三傑(もちろん信長、秀吉、家康)が義輝の才能に惚れるという描写を物語中に挿入している、さらに戦国のアンチヒーローである松永久秀と明智光秀も義輝を大器として一目置いているという描写を入れるのを忘れない。
もちろん明智光秀は義輝の味方なので、アンチヒーローではないのだが、彼が信長を好いていなかったという描写を入れることで本能寺の変の謎に対する伏線も入れている。もちろん本書では本能寺の変は描かれないので、その伏線は回収されないのだが、まあとにかく続編を意識したような持って行き方は、うーんうまいぞ!