爽快?なリストラ小説『君たちに明日はない』

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  • 書名:『君たちに明日はない』
  • 著者:垣根涼介
  • ISBN: 978-4101329710
  • 価格:590円(税別)
  • 刊行日:2007年10月1日
  • 発行:新潮文庫
  • ページ数:436
  • 形態:文庫

本書の主人公は企業からリストラ業務を依頼され、企業に乗り込み実際のリストラ面接をし、依頼企業の社員のクビを切る仕事をしている村上真介、そしてもう1人の主人公は章ごとに出てくるリストラ企業に勤める社員たちである。

何で自分が、こんなに頑張っているのに、勝手だ!ふざけんな!という社員側の視点と、面接官側の真介の視点が交互に描かれ物語は展開していく。

とくにスジに驚きや、ヒネリなどはなくストレートに物語は進んでいくが、登場人物たちの人間臭さがうまく書かれていてするりと読めてしまう。

私は実際に会社からクビを切られたことはないが、同僚が解雇通告を受けた場面を見たのは4回ほどある。

1回目はバイトをしていたゲーム問屋で、ECショップ部門だった私の同僚のバイトが3人やめさせられた。何でだったかは忘れたが、上層部からあまり好かれておらず、さらに仕事をサボっているのではないか?という疑惑がかけられてそのような事態になったと記憶している。

2回目は今年の初めまで勤めていた会社でのことだった、数年前の秋にその年の春に入った新卒の男性を半年で解雇したのだ、驚いたが私にはどうにもできなかった。

3回目も今年の初めまで勤めていた会社でのことだった、去年の春に業績不振のため減給があり、それ以降自主退社をした人たちが数人いたのだが、秋になりなんとまた新卒の男性と女性を1人ずつ解雇したのだ、またかよ、と思ったがその時は新卒を半年後に解雇するのを繰り返すような会社にいる方が不幸だよな、彼らにとっては将来的に見るとよかったのかなと思った。

で4回目も今年の初めまで勤めていた会社でのことだった、私の隣の席で働いていた同僚がクビを切られた。私と似たような仕事をしていた。私を切るか彼を切るかで迷ったが、彼との差は家族がいるかだったようだ。でも彼は私が辞めることになったらまた会社に戻ってきた。

なんか救いようのない話になったが、本書で書かれるお話はもう少し救いがある、リストラの不幸な話ではあるが全ての話で「頑張っている人にはそれなりの報いがある」という結果になるので、嫌な気持ちにはなりません。

ああよかった。

バオ・ダイでもなく溥儀でもなく 『クォン・デ―もう一人のラストエンペラー』

イカのえんぺら・・・ではない

  • 書名:『クォン・デ―もう一人のラストエンペラー』
  • 著者:森達也
  • ISBN: 978-4043625048
  • 刊行日:2007年7月
  • 発行:角川文庫
  • ページ数:351
  • 形態:文庫

あるベトナム人留学生から日本で亡くなったベトナムの王族がいるという事実を知った森達也が、ベトナムの王族「クォン・デ」の生涯を追っていく。

20世紀初頭、日露戦争で大国ロシアに勝ってしまった日本は欧米列強から圧力を受けていた当時のアジアの国々から大きな憧れと羨望を受けていた。

ベトナムも東遊(ドンズー)運動と称して多くのベトナムの若者が日本に渡り、クォン・デも日本にやってくる・・・

森達也はクォン・デの波乱に満ちた生涯をドキュメンタリータッチではなく、あえて小説風になぞっていく。

森達也の感傷的な文章は甘ったるく感じることもあるが、本作ではその甘ったるさがいい味付けとなり、なかなかに読ませるものになっていた。

歴史モノというジャンルに入ってしまうが、主な登場人物の来歴をわかりやすく説明しているので歴史ギライの人にもオススメします。

上司の嫉妬は怖い 『朝の霧』

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  • 書名:『朝の霧』
  • 著者:山本一力
  • ISBN: 978-4167901806
  • 刊行日:2014年9月10日
  • 価格:500円(税別)
  • 発行:文春文庫
  • ページ数:266
  • 形態:文庫

本作の主人公は波川清宗(玄蕃)、戦国時代の長宗我部氏に仕えた武将である。初めて聞く名前なのでWikipediaで調べてみると、生年不明で1582年1月12日没とあり、Wikipediaにあるその生涯の記述は非常に少ない。

Wikipediaの記述は以下の通り。

土佐国高岡郡(現在は吾川郡)の波川城主で、長宗我部国親に側近として仕えた。一条兼定を滅ぼした功で、国親の娘(長宗我部元親の妹)を正室に迎え入れ一門衆となる。その後も、国親の子・元親の四国統一に貢献して、幡多郡山路城主となった。

しかし、伊予国河野氏から寝返ってきた大野直之を援護するために派兵された際に、河野氏の援軍に訪れた小早川隆景軍と独断で和睦を結び、直之を見捨てて退却するなど失政を犯したため、蟄居させられる。その不満から天正8年(1580年)に反乱を企んだが露見し、阿波国へ逃れたが結局は自刃して果てた。

なお、子の波川清久は殺されずに、波川氏幕末まで続いた。

(Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/波川清宗 より引用)

何でこんなに記述が少ないのかの理由は明白で、1580年に反乱を企てたからである。実際に反乱をする意志があったかどうかはわからないが、反乱が失敗したのであれば鎮圧した側(長宗我部氏)が好きなように理由を書く。

誰かに陥れられてやむを得ず反乱という形になってしまったのかもしれないし、全くの濡れ衣で反乱という罪をなすりつけられたのかもしれない。

本書では波川清宗は上司である長宗我部元親の嫉妬により失脚させられたという立場を取り、夫婦ともにその悲劇に向かっていく様が書かれている。

南国土佐を舞台にしているが、タイトルである「朝の霧」という名前が暗示するように、結構暗い話であり、太陽キラキラという感じではない。

帯には「夫婦愛」、「感涙の時代長編」とか書かれているが、夫婦が最後に逃亡先で楽しく暮らすということでもないのでなんか夫婦愛とか感涙というのとはちょっと違う。

重くズッシリとくる読書であった、なんだろう岩でできたチョコレートを食べたらこんな風に感じるのだろうか。

私の勤めている会社には課長や部長がおらず私の上司は社長ということになるのだが、社長から毎日嫉妬の目を向けられたら怖いっつーか会社辞めるよ。

で戦国時代の武将はそう簡単に会社辞めますとは言えず、自分の属する地域の共同体全体でお殿様に付き従っているような関係なのでそんなことは言えるわけない、いや言えるんだけどその場合は戦争になるのである・・・

私は戦国武将ではなくてよかったと思った読書だったのである。

三羽省吾の得意な展開『路地裏ビルヂング』

路地裏ビルヂング

  • 書名:『路地裏ビルヂング』
  • 著者:三羽省吾(みつばしょうご)
  • ISBN: 978-4167719036
  • 刊行日:2013年1月10日
  • 価格:695円(税別)
  • 発行:文春文庫
  • ページ数:407
  • 形態:文庫

デビュー作『太陽がイッパイいっぱい』で三羽省吾のファンとなり、それ以降新作が出るたびに読んでいる。

著者の三羽という苗字だが、私は最初は「みはね」と読んでいた、でも正しくは「みつば」のようである、ずっと頭の中では「みはね」と読んでいたので違和感があるが「さんば」でもないし「みつば」なんである。

本作は「辻堂ビルヂング」というおんぼろビルに入居している、店子たちのそれぞれが主人公となったいわゆるオムニバスものである。

主人公となるのは怪しげな健康食品会社の新入社員、保育園の見習いおばさん保育士、学習塾のアルバイト講師、不動産会社分室の電話オペレーター、中小デザイン事務所の体育会系営業、そしてビルの管理人の6人全6話である。

最初の話に出てくるビルの屋上庭園で水撒きをしている謎の美人も話が進むにつれ正体が徐々に明らかになっていく。

三羽省吾の小説に出てくる主人公たちは、痛かったり、文句ばかり言っていたり、人生の失敗を人のせいにしていたり、と人生を半分諦めかけたような人たちであるのだが、その情けない主人公が何か(仕事とか)を通して「人生は甘くない、でも地道に頑張っている人には幸せになる権利がある」という真実というか事実というか、そういう事実というかなんつーか人生の真理というか、なんつーかに気づく、だいたいそういう話である。

ストレートな話であり、ひねりもあるわけではないのだが、その情けない主人公が「少しだけ」目覚める、そういう描写が非常にうまいのだ、三羽省吾は。

本作はその三羽省吾の「うまさ」がしっかりと出た作品であり、非常にオススメである。

ただ表紙の絵はどうにかならないのか、紙飛行機を持っている女性が「謎の屋上美人」であるはずなのだが、これじゃ小学生の女の子だよ、30代の素敵な女性のイメージだったのに、この本読まずに絵を描いたでしょ、ねえ。

これ読んだことあるって思って、自宅の本棚を見たら同じのがあった 『麦酒主義の構造とその応用胃学』

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  • 書名:『麦酒主義の構造とその応用胃学』
  • 著者:椎名誠
  • ISBN: 978-4087472493
  • 刊行日:2000年10月
  • 発行:集英社文庫
  • ページ数:234
  • 形態:文庫

数年前というか十年くらい前のことだ、バイトが終わって駅まで歩いている時、帰りの電車の中で読もうとしている本がもう少しで読み終わることに気づいた。

電車に乗っている途中に読む本が無くなると寂しいので、電車に乗る前に駅の本屋で何か買う事にした。

当時は蔵前にあるゲーム問屋で働いて、総武線の浅草橋駅から蔵前まで15分ほどをいつも歩いていた。

入ったのは浅草橋駅の隣にある品揃えはよくないものの、バイトの女の子が「アタシ本大好きです!ホンに埋もれて暮らしたいわ!」という感じのワリと硬派な老舗(おそらく)本屋であった。(今はないかも)

当時の私は椎名誠ばかり読んでいたので、文庫コーナーで椎名誠の本を探した。

書棚にはそこらへんの本屋と同じく、岳物語、哀愁の町に霧が降るのだ、銀座のカラス、さらば国分寺書店のオババ・・・などなど椎名誠の代表作が並んでいたが、そこらへんの作品はもう読んでしまっているので、私は読んでいない椎名誠の本でさらに読みたい気分のモノを探した。

その中で目にとまったのが『麦酒主義の構造とその応用胃学』であった。

帰りの電車の中で買った本を読み始めたのだが、冒頭の刺身の話から、どうも前にこの本を私は読んだことがあるな、いや、読んでないか、いややっぱり読んだことあるよ・・・という気分になってきた。

ただ、椎名誠の本は結構読んでいるので違う本で似たような話をしていたのだろうと思って読み進めた。

しかし家に着いて、私の本棚の椎名誠コーナーを見ると、なんと『麦酒主義の構造とその応用胃学』がドカンと鎮座していたのであった・・・

今まで読んだ本を全て記憶しているか、または記録していればいいのだが、それはめんどくさい。

読んだ本は捨てたり売ったりせずに家の本棚にズラーっと並べておいて毎日出かける前にチェックでもしておけばそういうこともないのだろうが、それは金銭的に許されない。

いや、読む本を年に一冊だけとかにすれば私の残りの人生で読む本というか買う本は100冊にも満たないのであろうから、何も考えずに本を買って、あれ持ってたとか、あれ読んだことあるとか、そういうことも起きず無駄遣いもせずにああ幸せって、それも無理だ。

既読の本をまた買っちゃうのを防ぐ方法なんかないだろうか。

アラビアのダンジョン小説 『アラビアの夜の種族』

ダンジョン

  • 書名:『アラビアの夜の種族(1)~(3)』
  • 著者:古川日出男
  • ISBN: 978-4043636037(1巻)、978-4043636044(2巻)、978-4043636051(3巻)
  • 刊行日:2006年7月
  • 発行:角川文庫
  • ページ数:277(1巻)、364(2巻)、407(3巻)
  • 形態:文庫

アラビアの夜の種族とはなんとも妖しい名前。”Arabian Night Breed”という著者不明の書物をサウジアラビアで見つけた古川日出男が日本で初めて訳した!という触れ書きの本書。

ナポレオンがエジプトに侵攻する直前のカイロ、エジプトの実力者のイスマイール・ベイ配下のアイユーブは持つものを破滅させる「災いの書」を作るために女物語師のズームルッドのもとを訪れる。

ズームルッドは境遇の異なる3人が阿房宮と言われる深い深い迷宮で邂逅する物語を語り始めるのだった・・・

阿房宮という迷宮の描写はドラゴンクエストかウィザードリィなどのゲームのようで、それなりのゲーム少年だった私は懐かしい感覚を覚えた。

文庫版は三分冊の結構な量であり、合計すると1000ページ近い量になると思われる。

この分量で文章は描写と演出の多い仰々しいものであるので読むのにはかなりの時間がかかる。

だがしかし、ただただ長ったらしいというわけではなく、長いけども面白い物語を話し聞かせてもらっているような気になれるのだ。

気軽に読める本が好きという方にはちょっとオススメ出来ないが、ヒマでヒマでしょうがないという方は是非手に取っていただきたい。

期待外れのカキオロシ 『GO-ONE』

地方競馬 ダート

  • 書名:『GO-ONE』
  • 著者:松樹剛史
  • ISBN: 978-4087461237
  • 刊行日:2007年1月
  • 発行:集英社文庫
  • ページ数:243
  • 形態:文庫

前作『ジョッキー』で、日本競馬で活躍する騎手達の人間臭くリアルな日常を描いた松樹剛史の競馬小説第2作目(なんと書き下ろし)が今回紹介する文庫。

地方競馬、中央競馬で活躍する若手の3人の騎手を軸に話は進んでいく。

前作でも感じた事であるが、キャラクターの造形がいわゆる日本のアニメに出てくる定型的なキャラクターのようで私はどうにもなじめなかった。

私は競馬が大好きで、世の中には競馬に関する小説が少ないなと思っていた。

だから、日本競馬の騎手を描く松樹剛史の登場は私にとってとてもうれしいものだった。

松樹剛史のデビュー作である『ジョッキー』は、荒削りで表現力不足な面も感じたのだが、これを書きたい!という圧倒的なパワーが感じられ数時間で読みきった記憶がある。

それだけに今回の小説に対する期待は高かったのだが、第2作目は失敗とまではいかないが成功とも言えない作品に仕上がったと思う。

だから私は松樹剛史の競馬小説第3作目に期待することにする、つーか前作『ジョッキー』の続編を書いて欲しいな。

欲望の器が小さくなる『アヘン王国潜入記』

疑惑の片栗粉。本書とはあまり関係ない

  • 書名:『アヘン王国潜入記』
  • 著者:高野秀行
  • ISBN: 978-4087461381
  • 刊行日:2007年3月
  • 発行:集英社文庫
  • ページ数:387
  • 形態:文庫

私が高野秀行の著作を初めて読んだのが本書。確か新刊書店でジャケ買いをしたように記憶している。

ビルマ(ミャンマー)の山岳地帯に住んでいる少数民族のワ族によってアヘンの栽培が行われていると知った著者がケシの栽培で生計を立てる村に単身乗り込み、ワ族とともにアヘンを作りアヘン中毒になってしまうお話である。(ワ族はビルマ北部のシャン州の州内州であるワ州に住んでいる)

軍事政権のビルマ(ミャンマー)には反政府勢力が多数存在し、その一つがワ州(ミャンマーの中国寄りの地帯で中国政府の影響が強いワ州連合軍の支配化にある)の反政府勢力である。

ワ州は麻薬の密造で名高い(悪名高い?)ゴールデントライアングルの一角を成していて、気候がアヘンを作るためのケシの栽培に適し、ケシをすぐに現金にすることができるので住民の多くはケシの栽培に従事している。

反政府にアヘンと聞くと重々しい犯罪のニオイがしてくるし、さらに軍事政権となるとビルマ(ミャンマー)の民主化だとかいう小難しい話が出てくるのではないかと思うが、そこまで小難しい理屈は出てこないので安心して読めるだろう。

またアヘンを吸う描写(というかアヘン中毒になってしまう)も見られ興味深い、とくに私はアヘンを吸ってみたいと強く思うわけではないがアヘンを吸うと「欲望の器が小さくなる」という説明にフーンと納得するのであった。

私は16歳くらいから20歳くらいまでの間の数年間、何か変な感情というかなんだかわからないが、いきなりトリップ(トリップと呼ぶのか、なんつーかいきなり脳の中に何かがうわーっと放出されるような感じ、でもなんか違う、なんて説明すればいいんだ)をするようなことがあった。

薬はやっていなかったし、何が原因なのかいまだにわからないのだが、たとえば歩いていたりゲームをしていたりするといきなりグワーっと何か得体の知れないというかなんというか何かが頭に上ってきて、それでトリップと言うか、自分が世の中で一番悲しい存在である、みたいな感覚に襲われて、それでその時の悩みがぱあっと消えるのだ、なんだかわからないが、とにかくそういう状態に30秒くらいおちいり、それで徐々にその感覚は引いていくのだ。

その時の感覚みたいなものをどう言葉にしていいのかわからず、当時は「バッドトリップ」と自分では呼んでいた。

で、このアヘン王国潜入記を読んだところ、アヘンをやると欲望の器が小さくなるという記述があり、私のあの「バッドトリップ」と似ているなと思ったのだ。

あの私の「バッドトリップ」はアヘンだったのか、アヘンと同じような脳内物質が大量に分泌されていたのだろうか、一体あれはなんだったんだ。

ホントウにミャンマーは江戸時代なのか? 『ミャンマーの柳生一族』

ミャンマー ヤンゴン,シェダゴンパゴダ

  • 書名:『ミャンマーの柳生一族』
  • 著者:高野秀行
  • ISBN: 978-4087460230
  • 刊行日:2006年3月17日
  • 発行:集英社文庫
  • ページ数:238
  • 形態:文庫

黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)の一角であるミャンマーのワ州に潜入しアヘンを栽培した高野秀行が、今度は作家船戸与一の取材旅行のガイドとして再びミャンマーへ・・・

今回は非合法な潜入でなくて、しっかりビザを取っての潜入・・・いや入国なのでミャンマー軍の情報機関のようなところが彼らのガイドおよび通訳および警護を担当する事になる。

そしてミャンマー軍情報機関の面々と船戸与一、そして高野秀行の面白旅が始まるのである。

本書の「柳生一族」というのはミャンマーという国を説明するために現在のミャンマーは鎖国中の江戸時代の日本である!と高野秀行が断定し、軍の情報部はあの「柳生一族」になぞらえる事が可能ではないのか?という冗談のような「ミャンマー軍情報部=柳生一族」説なのである。

海外に行った時、いや地方に行った時でもいいが、この街は日本で言うと東京だなとか、東京で言えば渋谷だな、などと訪ねた場所を自分の知っている地元で言えばどこか?というたとえをよく耳にするが、これも似たようなものである。

ニューヨークは日本で言えば東京だ!という断定などは、ある面では合っているだろうし、別のある面では大いに間違っているかもしれない。

ただ、ニューヨークを日本で言えば東京!と置き換える事により、ニューヨークのアメリカでの位置というものがおぼろげにつかめる気がする。

たとえというのは間違っている可能性も含みつつ、ただそのモノを頭の中で把握するためにちょっとだけ役に立つのハズなのである。

本書もミャンマー=江戸時代というやや強引な断定をしているが、そこからミャンマーも日本も対して変わらないのねという共有感覚が生まれ、でも江戸時代って事は結構色々ちがうのねという差異の感覚も生まれるのである。

まあなんだか小難しい小理屈を述べてしまったが、ミャンマー=江戸!という強引な仮説の強引っぷりが気持ちよかった本であった。

本書の柳生一族の関係者?と言ったら怒られるのかもしれないが、アウンサン将軍の娘スーチーの政党が最近ミャンマーの第一党となった、彼女の動向は日本ではかなり好意的に報道されているが、実際のところどういう人物なのだろうか、そして柳生一族はどうなるのだろうか。

先が気になるだけの、いま、会いにゆく息子タイムトラベル『時生』

トンネル 先が気になる、なんつって

  • 書名:『時生』
  • 著者:東野圭吾
  • ISBN: 978-4062751667
  • 刊行日:2005年8月12日
  • 発行:講談社文庫
  • ページ数:544
  • 形態:文庫

難病にかかった自分の息子がタイムトラベルをして、若い頃の父親(息子が生まれる前の父親)に会い、そして父親が成長するというお話。

父親と息子が同じくらいの年齢で出会うというのは重松清の『流星ワゴン』のようで、死んでしまう人間が過去にさかのぼるというのは『いま、会いにゆきます』のようでもある。

父親が出てくるお話に弱い私はちょっとだけ感動を期待して読み始めた。

確かに先の気になる展開であった(結末はわかっていたが・・・)、寝る前に読み始めたら読み終わるタイミングを逃してしまい夜更けまで読んでしまった。

タイムトラベルをして若い父親と一緒に当時の父親の恋人を助けに行くというストーリーはなかなかに面白い設定だと思う。

だが、この小説、何かが足りない。

ストーリーがどう展開するかが気になるだけで、登場人物が魅力的であったり、細かい小道具が面白かったりはしないのだ。

さらに携帯電話が普及するという事を未来の息子から知らされてそれを人に喋ったのがきっかけで就職が決まる、というギャグのような展開が一番気になった、なんだそれ。

別にうまく書いてくださいとは言わないのだけれども、もう少し地味に丁寧に色々考えて個々の登場人物のキャラクターを魅力的に書いて欲しかったな、なんてかなり勝手な事を思っている読後なのである。

あ、でも「先が気になる」という事だけに関しては結構いい線いっていましたよ。先が気になるというとこだけは。